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京都地方裁判所 昭和48年(行ウ)32号 判決 1985年3月27日

京都市上京区大宮通出水上る清元町七四七番地

原告

横石紀一

訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都市上京区一条西洞院東

被告

上京税務署長

土肥米之

指定代理人検事

浦野正幸

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告が、昭和五七年一月二〇日付で原告に対してした、原告の昭和五三年分ないし昭和五五年分(以下本件係争年分という)の所得税更正処分(昭和五五年分については裁決によって一部取り消された後のもの・以下本件処分という)のうち、昭和五三年分の総所得金額が一二七万九〇八〇円、昭和五四年分の総所得金額が一三七万六〇六一円、昭和五五年分の総所得金額が一三五万二三七三円をいずれも超える部分を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  本件請求の原因事実

1  原告は、長岡京市滝之町二丁目一九番一三号で、材料無償支給による電機部品の組立加工業を営む白色申告者である。

原告は、被告に対し、本件係争年分の確定申告をしたところ、被告は、昭和五七年一月二〇日、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした。そこで、原告は、被告に対し異議の申し立て、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、その経緯と内容は、別紙1記載のとおりである。

2  しかし、本件処分には、次の違法がある。

(一) 被告の部下職員は、原告に対して税務調査をするについて、第三者の立会を認めず、調査理由の開示をしなかった。

(二) 被告は、原告の本件係争年分の事業所得金額を過大に認定した。

3  結論

原告は、被告に対し、本件処分のうち、請求の趣旨第一項掲記の各金額を超える部分の取消しを求める。

二  被告の答弁

本件請求の原因事実中1の事実は認め、2の主張は、争う。

三  被告の主張

1  被告の部下職員のした税務調査について

被告の部下職員は、昭和五六年七月三〇日以降数回にわたって原告の自宅及び事業所に臨場して、原告に対して本件係争年分の所得金額の基礎となる帳簿書類等の提示を求めて税務調査の協力を要請した。しかし、原告は、非協力的態度に終始した。そこで、被告は、やむを得ず、反面調査のうえ、更正処分をしたもので、被告の税務調査に手続上の瑕疵はない。

2  本件処分の適法性について

原告の本件係争年分の事業所得金額は、次のとおりである。

以下に分説する。

年分 被告主張額(円) 本件処分の額(円)

昭和五三 三二五万九九五七 二四〇万八八一六

昭和五四 四三四万三四三四 三四三万三八九一

昭和五五 六〇一万三九二八 五四二万〇五一七

(一) 別紙2の<1>売上金額

<1>売上金額の内訳は、別紙3記載のとおりである。

(二) 別紙2の<2>同業者所得率

(1) 同業者の選定

被告は、原告の事業所を管轄する右京税務署及びその他の京都市内税務署で、原告と同じ電機部品の組立加工業を営んでいる個人事業者のうち、青色申告書を提出している者で、次の条件に該当する者を選定した。

<1> 取引先から原材料を無償支給されていること。

<2> 給料賃金あるいは外注費の支払があること。

<3> 他の事業を兼業していないこと。

<4> 年間を通じて事業を継続して営んでいること。

<5> 年間の売上金額が四五〇万円から三五〇〇万円の範囲内であること。

なお、右基準の売上金額の範囲は、原告の売上金額が、昭和五三年分は八九三万四七七九円、同五四年分は一二八五万三五八四円、同五五年分は一七三六万八六五七円であることから、上限を昭和五五年分のおおむね二倍、下限を昭和五三年分のおおむね半分とした。

<6> 京都市内署管内に事業所を有すること。

<7> 不服申立て又は訴訟が係属中でないこと。

この選定された同業者五件を整理したものが、別紙4であり、これらの同業者は、青色申告者であるからその算定の基礎となる資料はすべて正確であり、同業者の選定方法は、大阪国税局長の通達によったから、被告の慾意が介入する余地がない。

(2) 別紙4によると、同業者五件の平均所得率は、次のとおりである。

年分 同業者平均所得率

昭和五三 三六・七一

昭和五四 三五・九七

昭和五五 三六・七九

(三) 別紙2の<3>算出所得金額

<3>算出所得金額は、<1>売上金額に<2>同業者所得率を乗じてえた金額である。

(四) 別紙2の<4>支払地代・家賃

<4>支払地代・家賃の内訳は、別紙5記載のとおりである。

(五) 別紙2の<5>事業所得金額

<5>事業所得金額は、<3>算出所得金額から<4>支払地代・家賃を控除したものである。

四  被告の主張に対する原告の反論

1  別紙2の<1>売上金額及び<4>支払地代・家賃を認める。

2  原告には、このほかに、別紙6記載の支払地代・家賃があるから、これらを控除しなければならない。

3  被告は、同業者の平均所得率を算出するについて、同業者五件が支払った専従者給与額を算入していない。そこで、これを算入して同業者の平均所得率を算出すると、別紙7記載のとおりになる。

この同業者の平均所得率によって、被告の主張どおり計算すると、別紙8のとおりの事業所得金額がえられる。そして、その額は、本件処分の事業所得金額をはるかに下回るものである。

4  同業者五件の売上金額を比較検討すると、B、Cの売上金額は、他の同業者とバラツキがあるから、B、Cの売上金額は、他の同業者とバラツキがあるから、B、Cは、除外されるべきである。

五  被告の反駁

1  同業者の専従者給与額が、別紙7の<2>製造原価の「専従者給与額」欄記載の額であることは認める。

2  しかし、原告は、地方税法上、妻横石久仁子を、事業専従者として申告している。そこで、原告には、事業専従者が一名いることになるところ、同業者五件は、いずれも事業専従者が一名であるから(ただし、同業者Dの昭和五四年分には専従者が三名あったから、年間を通じて事業に従事していないと推認される二名の分合計金七〇万円は、別紙4の給料賃金に算入した)、被告が同業者の平均所得率を算出する際、この専従者給与額を考慮しなかったことは、正当である。

六  原告の再反論

原告の妻横石久仁子は、本件係争年分を通じ、原告の事業に従事したことはない。したがって、被告の反駁2は、事実に基づかない主張である。

青色申告者の支払う専従者給与は、売上原価を構成し売上に寄与しているのであるから、専従者給与は、雇人費と同じ性質がある。したがって、被告の計算は、明らかに間違っている。

第三証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおり。

理由

一  本件請求の原因事実中1の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告の部下職員のした税務調査について

本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、被告の部下職員がした税務調査に原告主張の違法があることが認められる証拠はない。したがって、原告のこの主張は、採用しない。

三  原告の本件係争年分の事業所得金額について

1  別紙2の<1>売上金額及び<4>支払地代・家賃は、当事者間に争いがない。

2  証人黒仁田修の証言によって成立が認められる乙第一ないし第七号証の各一、二や同証言によると、三被告の主張の2の(二)の(1)の事実(ただし、同業者Dの昭和五四年分の給与賃金及び所得率を除く・この点は後述する)が認められ、この認定に反する証拠はない。

3  そこで、原告の主張について判断する。

(一)  原告は、同業者B、Cを除外すべきであると主張しているが、被告は、同業者を選定するについて、争いのない原告の売上金額を基準にしていわゆる倍半の方法で同業者の売上金額の上限と下限とを画したわけで、この方法は、多くの同業者を選出するために必要であることは、いうまでもない。そうして、選定された同業者の平均率を算出するのであるから、これにより通常の範囲の上下が平均化されるのである。したがって、同業者五件の中からBCの売上金額が多すぎることだけでこれらの者を同業者から除外するわけにはいかない。

(二)  原告は、同業者の平均所得率を算出する際、同業者の青色事業専従者の給与額を算入すべきであると主張している。

しかし、所得税法五六条は、「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む・・・・・事業所得・・・・・を生ずべき事業に従事したこと・・・・・により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る・・・・・事業所得の金額・・・・・の計算上、必要経費に算入しないものとし」ている。これが原則であるが、これには、次の例外規定がある。

まず、「青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族でもっぱらその居住者の営む・・・・・事業に従事するものが・・・・・給与の支払を受けた場合には・・・・・その居住者のその給与の支給に係る年分の・・・・・事業所得の金額・・・・・の計算上必要経費に算入」される(同法五七条一項)。

次に、「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族でもっぱらその居住者の営む・・・・事業に従するものがある場合には、その居住者のその年分の当該年分の当該事業に係る・・・・・事業所得の金額・・・・・の計算上、各事業専従者につき、次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を必要経費とみなす。一 四十万円 二 省略」(同条三項)。

そうすると、いわゆる白色申告に係る居住者が、その事業を営むについて、配偶者に給与を支給しても、それは、居住者の必要経費にはならず、申告により四〇万円の必要経費の控除が受けられるにとどまるのに対し、青色申告に係る居住者が、その事業を営むについて、配偶者に給与を支給した場合、専従者給与額は、居住者の必要経費になるわけで、税法上、白色申告に係る居住者と、青色申告に係る居住者とは、この点で全く異った取扱いを受ける。

そうすると、原告は、白色申告に係る納税者であるから、青色申告に係る同業者の支払った専従者の給与を除外して所得率を計算しないと、原告が、青色申告に係る納税者と同じ扱いを受けてしまい、不合理である。原告としては、配偶者その他の親族に支払った給与があるのであれば、必要経費として四〇万円の控除を受ける方法があるのであるから、これによって、専従者の給与を除外して所得率を算出することと辻褸が合うのである。

このようなわけであるから、原告のこの主張は採用しない。

そうすると、被告が、同業者Dの昭和五四年分について、専従者給与として支払われた金七〇万円(前掲乙第三号証の二によって認める。)を給料賃金に含めて計算したのは、この観点からすると誤っている。そこで、これを除いて計算すると、同業者Dの昭和五四年分の<4>算出所得金額は三五〇万二八二四円、所得率は四三・一五パーセントになり、昭和五四年分の同業者の平均所得率は三七・七〇パーセントとなるから、当裁判所は、この数値を適用することにする。

(三)  原告は、本件係争年分の支払地代・家賃として、別紙2の<4>支払地代・家賃のほかに、別紙6の金額を除外するよう主張し、被告は、別紙6の番号1、2の支払事実を認めている。

そこで、問題は、支払われた別紙6の金額が、原告の事業用といえるかどうかであるが、原告本人尋問の結果中には、これにそう供述部分がある。しかし、別紙6の番号1、2の各建物や土地は、原告の事業所とは全く離れているから、番号1、2の各建物や土地に支払われた賃料又は使用料が、原告の事業用であるとするのは無理である。もっとも、原告本人尋問の結果によると、番号1の建物で原告が昭和五三年一二月中ころまで仕事をしていたことが認められるが、居住用と事業用との割合が全く判らない(原告の本人尋問では半々程度と曖昧なことを述べているにすぎない。)。

別紙6の番号3の土地の契約者は、訴外横石康治であって原告ではなく、原告が使用したことがない(このことは、成立に争いがない乙第一二号証、証人黒仁田修の証言、原告本人尋問の結果によって認める。)。したがって、番号3の土地の使用料の支払が、原告の事業用であるとするのは無理である。

4  原告の本件係争年分の事業所得金額の計算

被告の主張する同業者五件によって平均所得率を算出し、これによって原告の算出所得金額を計算する推計方法には、合理性があり、同業者五件は、原告の事業及び規模に類似性が認められるとしなければならない。

そうすると、被告の主張する計算方法に従って、原告の本件係争年分の事業所得金額を計算すると、次のとおりの額になることは、計数上明らかである(別紙2を参照)。

年分 裁判所の認容額(円) 本件処分の額(円)

昭和五三 三二五万九九五七 二四〇万八八一六

昭和五四 四五六万五八〇一 三四三万三八九一

昭和五五 六〇一万三九二八 五四二万〇五一七

そうすると、本件処分は、裁判所の認容額の範囲内であるから、被告が原告の本件係争年分の事業所得金額を過大に認定した違法はないといわなければならない。

四  むすび

本件処分には、原告主張の違法がないから、本件処分の取消しを求める本件請求は、失当として棄却を免れない。そこで、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 古崎慶長 判事 小田耕治 判事補 長久保尚善)

別紙1

課税の経緯

<省略>

別紙2

事業所得金額計算

<省略>

別紙3

売上金額明細

<省略>

別紙4

同業者所得率表

<省略>

別紙5

支払地代・家賃明細

<省略>

別紙6

支払地代・家賃明細

<省略>

1は、京都市上京区大宮通水上る清元町747番地家屋番号33の建物の賃料

2は、京都市上京区下長者町通智恵光院東西辰己町110番の土地の一部のガレージ代

3は、京都市下京区梅小路石橋町92番の土地の一部のガレージ代

別紙7

同業者所得率

<省略>

別紙8

事業所得金額計算

<省略>

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